テクスト主義

世界を革命する力を!

トマスピンチョン L.A.ヴァイス

自分自身トマスピンチョンの作品を読むのは初めて。

まず驚いたのはその圧倒的情報量。作中には6、70年代の音楽やテレビ番組、映画などの固有名詞が大量に登場する。60年代から始まるヒッピームーブメントと密接に関わるこうした記号を通して70年代のLAひいてはアメリカを見通すことになるのである。

70年代にはアメリカはベトナム戦争の敗戦を経験しそれとともにヒッピー文化も終焉を迎えることとなる。ヒッピーたちの「Love and Peace」の思想は現実の政治に対しては結果として効力をもたなかったといえる。むしろ彼らの想像力はコマーシャル化していくのである。ベトナム戦争の敗戦という1つの破局はある種必然だったのである。

主人公は常にマリファナを吸っているようなヒッピーの私立探偵であるが彼は公権力が関わる事件に巻き込まれていく。この筋書きには国家対ヒッピーの想像力という対立構造を見て取ることが出来る。しかし物語においては結局事件の全貌は解明されることはない。一応の物語的決着は付くのだが黒幕は逮捕されずどこか不安を残すような終わり方をする。

現代は「L.A Vice」ではなく「Inherent Vice」である。訳せば「内在する欠陥」とでも言うことができるだろうか。つまりメイフラワー号が東海岸アメリカに到着し現在のアメリカまでに抱えるアメリカという国家の欠陥のことを示しているのである。彼らのフロンティア精神溢れる拡張主義はベトナム戦争の敗戦という破局をもたらした。それこそがInherent viceであり本作でL.Aを通して語られんとされているところなのではないか。

 

LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)

LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)