テクスト主義

世界を革命する力を!

桝山寛『テレビゲーム文化論』

最近、テレビゲームって何なんだろう?というのはいつもぼんやりと考えている。ゲームは割と好きで結構プレイしている方だが未だにゲームという物の正体が掴めない。

テレビゲームは体験するものであり映画のように受動的に視るものではない。しかしストーリーは存在するし近年ではグラフィックの進化により実写に近いクオリティのゲームソフトまで登場している。それではゲームは映画を越えるのだろうか?それもまた違うだろう。映画には映画の良さがある。たぶん

少しでもゲームという物が何かを考えてみたくこの本を注文した。この本。初版が2002年ということだから現時点からすると出版されてから13年が経過している。ゲームはテクノロジーの進歩に直接影響を及ぼされるということを考慮するとこの13年間という時間はかなり大きいものと言える。この本に示されている論には未だに有効なものもあるし、すでに失効してしまっているものもあることには留意したい。

本論で示されているのはまずテレビゲームの歴史はコンピュータの発展と密接に関わってきたということだ。初期のコンピュータにはモニタがなくコンピュータ上で遊ぶなんて誰も考えることはできなかった。しかしモニタが登場ししばらくするとプログラムによってその映像上の点と線を動かすという行為でテニスをする『ポン』のような簡単なゲームが登場するのである。

70年代にはアメリカATARI社がゲーム専用機をつくり、80年代にはタイトーの『スペースインベーダー』が登場。そして任天堂が『ファミリーコンピューター』を世に送り出し世界的に日本のゲーム産業界は一気に世界の中心となるのである。

著者はここまでの歴史を語った上で当時のゲーム界(PS2XBOXがやっと出てきたくらい)はすでに飽和しているのではないかという疑問を投げかけている。ゲームはマイクロコンピューターの上に描かれる仮想の遊び相手だとすれば現在の人間はすでにそれに飽きコンピューターに仮想の頭脳を持たせるだけでなく身体を持たせたものを求めているのではないかという仮説をSONYAIBOなどの愛玩用ロボットの流行に合わせて示して居る。つまりこれからはゲームというコミュニケーションからロボットとのコミュニケーションへ移行するだろうというのだ。

しかし現在からすればこの予想は外れたと言ってよいだろう。実際AIBOは2006年に製造中止になっており、それに変わるロボットペットが開発されたり流行になっていることはない。相変わらずゲーム業界はテレビゲームを作り続けている。筆者が予想できなかった要素としてあげられるのはスマホの登場に見られる情報端末の小型化とそれによるインターネットのさらなる広がりであろう。

現在のゲーム市場においては据え置きゲームがスマホゲームの売り上げに負けているという現象が起きている。筆者は据え置きゲームはグラフィックの向上とソフトにおけるルール(つまりゲーム性)という細かな変更点を除けばこれから進化する余地はないということを述べている。確かにこの点は一部同意できるだろう。しかし作者が未来予測を誤った点はスマホのような小型化された情報端末が普及し、人間とロボットがコミュニケートするのではなくインターネットを介して人間と人間がコミュニケートするということだったのである。

人々はゲームに物語性を求めずむしろ物語性の無いゲームにおいて自己と他者をインターネットにつなぐことによって得られるコミュニケーションを求めていたのである。パズドラやモンストといったゲームにはファイナルファンタジーのような映像美は必要ない。そこにはデフォルメされたキャラクターと分かり安いゲーム性だけがあるのである。

一方でリアル志向のゲームはどんどん「リアル」へと突き進んでいる。OculusRiftの登場はよりリアルな「現実」がゲームにもたらされることを予感している。余談だがこうしたリアル志向なゲームのシェアはどんどん海外の開発会社に奪われている。映画制作の経験値と膨大なバジェットをつぎ込んだコールオブデューティシリーズなどのアメリカの大作ゲームに日本のゲーム会社は太刀打ちできていない状態だ。つまり現在のテレビゲーム産業はリアル志向なPC、テレビゲームとスマホゲームのようにネットワークにつながれたコミュニケーション重視のゲームという二大潮流にわかれているといえる。私が注目したいのは前者のようなリアル志向のテレビゲームだ。VR技術の発展により実写映画を超えたハイパーリアリティとも言うべき体験が提供されるのか、楽しみである。

 確かに作者の予想は外れたがもちろん示唆的な部分も多くあった。まだまだ勉強不足で自分の中でゲームという物の正体は未だにはっきりとしないがこれからのゲームの歴史はどう進展していくのか、見守って行こうと思う。

 

テレビゲーム文化論―インタラクティブ・メディアのゆくえ (講談社現代新書)

テレビゲーム文化論―インタラクティブ・メディアのゆくえ (講談社現代新書)