テクスト主義

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若杉実 『渋谷系』

渋谷系とはなんじゃらほい。という疑問に駆られ購入。そもそも何故渋谷系に興味を持ったかというとまず始めに小沢健二の存在を知ったことに遡らなければなるまい。

  始めてオザケンのことを意識したのは2010年02月28日放送のTBSラジオの番組文化系トークラジオLifeの特集「小沢健二とその時代」を聴いてからだった。当時はおそらく自分は浪人をしていた頃だったと思う。「全然知らない人だしあまり興味ないけど聴いてみるか」くらいの感覚でポッドキャストで配信されていた放送を聴いた。話を聞いてみるとどうやら、小沢健二とは90年代のミュージシャンで絶大な人気を誇っていたが突然メディアの世界から姿を消し、いつのまにかアンチグローバリーゼーションのような思想を唱えるようになった人間らしい。 なんだか変わった人なんだなあという印象を抱いたことを覚えている。小沢健二本人のことはもちろんその周りに浮遊するオリーブ少女やらなんやならの渋系的記号も気になったがその時はそんな人がいるのかと思ったぐらいである。 

それから数年して大学生になった僕は大好きだったヒップホップに飽きていた。というかクラブミュージック全体に飽きていた。某音楽サークルに入りDJやラップをする中でいろいろ聴いていたのだがなんだか作業みたいになってきて嫌気がさしてしまったのである。よくある話だ。それからはあまり最新の音楽は聴かなくなった。専ら僕が聴いていたのは尾崎豊だった。尾崎の歌詞の中に現れる生きづらさや社会との摩擦といったテーマはちょうど上京して疲弊してしまった自分と重なって見えたのである。渋谷道玄坂にあるバイト先にむかう途中『僕が僕であるために』をスクランブル交差点で聴いては自分で悦に入るような恥ずかしいこともしていた。

  しかし尾崎もやはり何か違うような気がしていた。自分の閉塞した状況は80年代当時の尾崎の歌詞とはなんか違うような気がした。それに暗い曲ばかり聴いてもなんにも解決しないし。それで何かの拍子にフリッパーズ・ギターのカメラトークを聴いたのである。始めて聴いたときはなんてシャレオツな奴らなんだ!と思った。ちょっとフランスかぶれな感じの音やこっちが恥ずかしくなるような臭い曲のタイトル。それから小山田圭吾のあのなんともいえない少年っぽい声。いろいろ暗い気持ちだった僕にはこれがばっちりハマったのである。底抜けに明るい彼らの歌は月並みだが自分を明るくしてくれる気がした。こりゃいいやとばかりにフリッパーズギターにハマったのである。そういえばLifeでオザケン特集とかやってたなとか思い出しつつそれから色々調べだした。するとどうやら渋谷系という1つの流行があったらしいということが解ったのである。年上の人はこんなコトを聞いて失笑してしまうかもしれないがフリッパーズがカメラトークを世に出した90年ですら僕はまだ生まれてすらなかったのである。とうぜん彼らが活躍していた時代はまったく記憶にない。渋谷系を”再発見”した僕はピチカートファイブオリジナル・ラブなどの渋谷系アーティストを聴きあさっている。自分にとっての音楽ルネッサンスが起きている気がする。 

 本書を読んでぼんやりとしていた渋谷系という概念が少しは固まった気がするがあくまでこの本はほぼ渋谷の内側からしか渋谷系について述べておらず、オリーブ少女などの外部的、副次的な要素はあまり語られていない。それにしても90年代の渋谷はすごかったそうである。当時の渋谷はギネスブックに乗るほどのレコード街で多くの若者がレア・グルーブを探しにそのレコード屋をぐるぐる回遊魚のように廻っていたそうである。そうしたレア・グルーブ文化による音楽的素養が渋谷系音楽発達の土壌となったそうだ。インターネットもない時代の彼らの情熱は今の僕からしたら何故かうらやましい。口コミできいた情報をたよりに自分の脚でそれを確かめる。そんなアナログな行動はなんだか楽しそうなのである。

  そんな若者であった筆者は最近渋谷に行かなくなってしまったとか。渋谷系という潮流は割と早く終わっており、どうやら96年あたりにはそのピークは過ぎてしまっていたらしい。それとともに街の様子も変わってしまい昔のようなおもしろさもなくなってしまったらしいのである。たしかに配信時代の今ではレコード屋が淘汰されるのは当然だろうし、まあそもそもブームというものはいつか終わってしまうものだ。筆者の文にはそうした時間の流れと共に変わってしまった渋谷に対するどこか哀愁めいたものを感じる。 しかし僕は今渋谷系を聴いている。いくらその当時の渋谷系文化が廃れてしまってもその当時の作品がダメになってしまうわけではない。こんな疲弊した世の中オザケン聴いてないとやってなれないよ。ということでしばらくは自分の中で渋谷系ブームは続くだろう。

 

渋谷系

渋谷系